さわだメモ

メモ書き

俺は『NARUTO』に王道少年漫画の完成系をみた

序論

 日本のアニメや漫画は途上国においても大人気で、その筆頭が『ドラゴンボール』、『ワンピース』そして『NARUTO-ナルト-』であることは周知の事実です。

 途上国で生活する日本人としては読んでおかないといけないなあと思い、少し前に『NARUTO』を読みました。3日ぐらいで一気に全巻読破しました。
 ※以下多少ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。

NARUTO -ナルト- 1 (ジャンプ・コミックス)

NARUTO -ナルト- 1 (ジャンプ・コミックス)

 感想を一言で言うと最高に熱く面白い漫画でした。

 もちろん最初から最後まで文句なく面白かったわけではありません。72巻という長さのせいもあり、後半は読み進めるのもしんどかったです。早く次が知りたいというよりも、早く読み終わりたいという気持ちでページをめくりました。

 特に、死者を蘇らせる技でこれまで死んだキャラが総登場したところは少しげんなりしましたね。また、最後の展開は大味すぎて何かよくわからないことになっていました。

 それでも72巻もの長い作品を一気に読み通すことができたのは、『NARUTO』が「気持ちよく」読める漫画であったことにあります。ハッピーエンドに突き進んでいく安心感のようなものがありました。

 そして、全体が大きな物語としてまとまっているので、読み終わったあとの満足感は非常に大きかったですし、部分部分をみても、もう一度読み返したくなる名シーンがたくさんありました(マイベストは我愛羅とロックリーの中忍試験での一戦です)。

本論

 さて、ここからが本題です。

 私は『NARUTO』を読破する少し前に『荒木飛呂彦の漫画術』を読んでいました。

 

 ここに書かれている王道漫画のマニュアルを『NARUTO』は忠実に守っていることに気がつきました。いや、ただ守っているだけでなく、私は『NARUTO』を読みながら、これこそが王道少年漫画の完成系だと感じられたのです。
 
 どういうことか、『荒木飛呂彦の漫画術』を引用しながら具体的にみていきましょう。

明確な動機

一番大事なのは「動機」です。主人公は何をしたい人なのか、その行動の動機をはっきり描かないと、キャラクターというものは出来上がっていきません。

 ナルトの一番の動機は「火影」になることです。このことは1巻の冒頭で語られ、一貫してナルトの目標であり続けました。そして、最後に火影になって物語が完結しています。
 
 週刊雑誌の人気漫画となると、なかなか終わらせることができないので、引き伸ばし継ぎ足しをするなかで、冒頭の動機とは全く違う方向に進んだりすることがしばしばですが、『NARUTO』は72巻という長大な物語にも関わらず、最後まで動機がぶれることがありませんでした。

孤独な主人公

主人公は「善なるもの」であり、さらに「ヒーロー」である必要があります。ここでヒーローの条件が何かと言えば、実は、孤独である、ということです。究極の選択を迫られたとき、それは主人公だけが解決できる、というものでなければいけませんし、自分の力でその難問を解決しなければならない主人公の立場は、どうしても孤独にならざるを得ません。

 
 最終的にナルトは孤独でなくなりますが、化け物を身に宿しているナルトは周囲から疎まれ、孤独に生きてきました。また、戦いの中でも自分の運命を受け入れ、孤独に戦おうとします(もっとも、『NARUTO』は「孤独からの脱出」がテーマになっているので、他のキャラがその孤独に戦う姿に感化され、微力でも協力しようとするのですが)。

常にプラス

少年漫画は、常にプラス、プラス、プラス……と、ひたすらプラスを積み重ねて、どんどん上がっていく、これがヒットするための絶対条件です。

 ナルトはまさに常にプラスの存在です。ドンドン強くなっていきますし、途中で負けることも落ち込むこともほとんどありません。だから気持ちよく見ることができるのです。

 ドンドン強くなっているにも関わらず、かつてのバトル漫画にありがちな極端なインフレも起こしませんでした。前半に登場した強キャラがあとから見返すとゴミのようなキャラに見えてしまう『ドラゴンボール』や『幽遊白書』といった過去の名作の失敗から学んでいます。

脇役が魅力的

脇役キャラクターの基本的な動かし方としては、その欠点にあたる部分を克服していく。たとえば、孤独で友人ができないタイプの脇役がいたら、徐々に友達ができる、そういう部分で読者の共感を呼ぶようにします。敵役であれば、最初は敵対するけれど、次第に主人公と友達になる、というパターンが常道でしょう。

 『NARUTO』は脇役が魅力的です。引っ込み思案なヒナタ、忍術の才能のないロックリー、めんどくさがり屋のシカマル、大食いのチョウジなどそれぜれ欠点のあるキャラがそれを克服していく姿に共感できるからでしょう。
 
 そしてナルトには本当の意味での敵はいません。情状酌量の余地のある敵ばかりなのです。再不斬、我愛羅長門大蛇丸、カブト、オビト、そしてサスケとみな最後には改心しています。そこが読後感の良さにつながっているように思います。

個性的な絵

漫画の絵で大切なのは、一瞬見ただけでも誰の漫画かすぐわかるように描くことだ、と確信しました。絵も筆跡と同じで、個性は誰でも自然とにじみ出てくるものです。しかし、その上を行くデザインや雰囲気が漫画の絵には絶対に必要なのです。

 『バクマン』の中でも言われていますが、岸本先生の絵は上手いだけでなく、パッと見てそ岸本先生の絵とわかるパワーがあります。

強力なテーマ

テーマが漫画に限らず映画や小説、テレビドラマでも、名作と呼ばれるものには、その背後に必ず強力な「テーマ」が存在しています。

 ナルトのテーマは「愛」、もう少し付け加えると「愛が孤独を救う話」だと私は思います。ナルトが世界中で親しまれているのは、こういった普遍的なテーマを持っているからこそでしょう。

結論

 『NARUTO』は『ドラゴンボール』に代表される王道漫画の系譜を引き継ぎながら、その宿命的な欠点をうまく解消しています。インフレを起こさず、冒頭の目的を貫き、無理な引き伸ばしを感じさせません。それも、『ドラコンボール』の倍近い巻数を出しているにも関わらずです。

 そういう意味で、『NARUTO』は少年漫画の一つの到達点であるとさえ思います。海外でヒットしているのは、外人の忍者趣味のためだけではないのです。


以上